協働ロボットBLOG

ここまで変わった!構内搬送の新常識

第5回:AMR導入のための安全方策

By 協働ロボット.com 運営担当

「ここまで変わった!構内搬送の新常識」と題して、近年海外を中心に注目を浴び、次世代AGVとして国内でも導入が始まっている自律走行搬送ロボット・AMRについて、ロボットSIerの立場から皆様にご紹介する形でここまでお話を進めてきました。今回はいよいよ最終回。実際に導入するにあたり、決して忘れてはいけない安全方策についてお話しします。

AMR導入時に意外と見落としがちなのが、安全方策なのです。

AGVやAMRが、その稼働領域を人と共存・共用する以上、安全性の確保は非常に重要なものとなります。
無⼈搬送⾞の安全性については、ISO3691-4/JIS D 6802「無⼈搬送⾞及び無⼈搬送⾞システム - 安全要求事項及び検証」で規定されています。
そこには、無⼈搬送⾞には、安全⽅策として、⼈や障害物と接触した際にAMRを停⽌させる圧⼒検知⽤バンパや、⼈や障害物への接近を検知するレーザスキャナ、⾮常停⽌装置などの安全機器、指定条件で警報を発する装置の搭載が要求されています。また、ブレーキや速度制御機能も必要な安全機能として挙げられています。

AGVやAMRはこれらの機能の搭載が必要です。

AMR(MiR)活用事例

しかしながら、システムとしての運⽤を考えたときには、無⼈搬送⾞の安全機器搭載だけで安全な稼働環境を実現することは難しくなります。また、⽣産性の考慮をしなければAMRシステムの導⼊は成功しません。
安全性と⽣産性を両⽴させた最適な環境を実現するためには、安全⽅策と現場における運⽤規制の両⾯から、メーカー、SIer、使⽤者が協議し、安全を確保しつつ⽣産性も考慮して慎重に対処することが求められます。そのための基本となるのが、リスクアセスメントです。

〈リスクアセスメントとは〉

リスクアセスメントとは、設備運⽤前に設備の持つさまざまな危険な個所や危険な動作(危険源)を⾒つけ出し、それによって引き起される労働災害の重⼤さを予想して危険源の持つリスクの⼤きさを⾒積もり、そのまま放置してもよいかどうかを判断する⼿法です。
その結果から、重⼤事故につながる可能性のある危険源から順に安全⽅策を講じていきます。
リスクアセスメントと安全⽅策に関しては「危険性・有害性等を調査し、その結果に基づいて必要な措置を講ずるよう努めなければならない(本⽂概略)」として労働安全衛⽣法(⼆⼗⼋条の⼆)に、努⼒義務として定められています。
特に現代においては多様な設備、物質が使⽤され、それに応じて危険性・有害性も多様化しているため、何がリスクとなるのか、その⾒極めと優先度の選定、そして対策を⾏うことが⼤切です。
前述した通り、AGVやAMRが⼈と稼働領域を共有する以上、協働ロボット同様、リスクアセスメントは⾮常に重要です。

参考:今だから考えたい「協働ロボットと安全」 第2回:リスクアセスメントとは?
 https://www.kyodo-robot.com/blog/20170809-safety2

リスクアセスメントの具体的な手順についてご紹介します。

〈リスクアセスメントの手順〉

1.機械類の制限の決定

機械の使用範囲、設置環境の限定、稼働時間の限定などの仕様を決定します。
例)稼働範囲を設定する
  走行速度の制限を設定する

2.危険源の同定

1で設定したエリア内をAMRが走行する際、どんな危険があるか、どういったトラブルが発生しうるかといった危険源を同定し、明確にします。
例)AMRに積載した物の落下

3.リスク見積もり

2で同定した危険源の全てに対して、個々にリスクを見積ります。
リスクは同定された危険源で被災した場合の「危害のひどさ」と、それが発生する「危害の発生確率」の組合せで、大小を見積ることができます。
例)積載物の落下によって作業員が負傷(骨折)する

4.リスクの評価

3で行ったリスク見積りの結果に基づいて、リスクを低減させる処置が必要かどうかを決定するためにリスクの評価を行います。
リスク低減が必要と評価された場合には、リスク低減方策を適用します。
例)作業員の骨折は許容できるリスクではないため、低減方策の適用が必要
⇒AMRから積載物が落下しない機械的構造を追加

リスクアセスメントの手順

以上のようなリスク低減により、安全性が明確になって、人とAMRの作業領域を分けることなく、協調と協働が可能になります。

ISO3691-4/JIS D 6802では、無⼈搬送⾞・無⼈搬送⾞システム特有の危険源・危険事象や、具体的な安全⽅策が⽰され、それらを参考にすることでAMRのリスクアセスメントと安全⽅策の最適化が可能となります。

おわりに

国際規格ISO3691-4:2020 「Industrial trucks Safety requirements and verification-Part 4: Driverless industrial trucks and their systems」を冒頭で取り上げましたが、これは、JIS化されて2022年2⽉にJIS D 6802 改訂版として発⾏されています。JIS規格では⼀部内容が変更されています。変更点はJIS規格の付属書にまとめられていますのでご参照ください。
ISO3691-4が2020年2⽉に発⾏され、無⼈搬送⾞や無⼈搬送⾞システムに対する安全⽅策の考え⽅が具体的に⽰されました。⼿探りだった部分が明確になったことで、今後、無⼈搬送⾞システムの安全⽅策が進んでいくと考えられます。

 

本ブログシリーズ、いかがでしたでしょうか。何らかの形で皆様の参考になりましたら、執筆者としては嬉しいかぎりです。AGV、AMRにつきましては、引き続き今後も皆様への情報提供に努めてまいります。よろしくお願いいたします。

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