協働ロボット.com 運営担当です。
ここ数年、AIといえばChatGPTに代表される「文章や画像をつくるAI」が話題の中心でした。そして2026年に入り、その次の潮流として一気に注目を集めているのが「フィジカルAI」です。展示会やニュースでこの言葉を目にする機会が増えた一方で、「結局、今までのロボットと何が違うのか」「自社の現場に関係ある話なのか」と感じている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、フィジカルAIの基本から、私たちが日々扱っている協働ロボットとの関係、国内外の動向、そして製造現場が今から準備できることまでをわかりやすく解説します。
【目次】
フィジカルAIとは、AIが現実世界の状況を認識・判断し、ロボットなどの「身体」を通じて実際に行動する技術のことです。文章や画像といった画面の中の情報を扱う生成AIに対し、フィジカルAIはモノをつかむ、運ぶ、組み立てるといった物理的な作業を担う点が大きな違いです。
従来のロボットとの違いを整理すると、次のようになります。
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従来の教示型ロボット |
フィジカルAIを搭載したロボット |
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動作の決め方 |
人があらかじめ教えた動作を正確に繰り返す |
状況を見て、自ら動作を判断・補正する |
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得意な作業 |
決まった場所・決まったワークの定型作業 |
位置や形状がばらつく作業、変化のある作業 |
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変化への対応 |
品種や条件が変わるたびに再教示が必要 |
学習した知識をもとに柔軟に対応 |
たとえば部品の置き位置が少しずれていた場合、従来のロボットは教えられた位置に手を伸ばすため作業に失敗してしまいます。フィジカルAIを搭載したロボットであれば、カメラなどのセンサでずれを認識し、自ら位置を補正して作業を続けることができます。「決められた通りに動く」から「考えて動く」への進化、これがフィジカルAIのポイントです。
フィジカルAIへの注目が一気に高まったきっかけのひとつが、2026年1月に米国で開催されたCESです。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは基調講演で「ロボティクスにとってのChatGPTモーメントが来た」と宣言し、会場ではヒューマノイドや協働ロボットの展示が大きな注目を集めました。
注目の背景には、大きく2つの要因があります。
●技術側の進化
大規模言語モデルに代表されるAI基盤モデルの進化に加え、仮想空間でロボットの動作を学習させるシミュレーション技術や、学習用のデータを人工的に生成する技術が発展しました。これにより、ロボットが多様な状況に対応するための学習を、現実の現場だけに頼らず進められるようになってきています。
●需要側の切実さ
製造業・物流業では人手不足が年々深刻化しています。定型作業の自動化はすでに進んできましたが、残っているのは「毎回少しずつ条件が違う」「人の判断が必要」といった、従来のロボットが苦手としてきた作業です。まさにこの領域を担える技術として、フィジカルAIに期待が集まっています。
フィジカルAIというと、人の形をしたヒューマノイドロボットを思い浮かべる方も多いかもしれません(ヒューマノイドについては前回の記事で詳しく解説しています)。しかし製造現場において、フィジカルAIの「身体」として実用化がより早く進むと考えられているのが協働ロボットです。その理由は大きく3つあります。
●すでに現場で使われている「身体」であること
協働ロボットは、すでに多くの製造現場で稼働している実績ある機械です。AIという「頭脳」を載せる身体として、信頼性や保守体制がすでに確立されていることは大きな強みです。
●人と同じ空間で働くことが前提であること
フィジカルAIが目指すのは、人が働く環境の中で、人と一緒に作業するロボットです。安全柵で囲われた空間で動く従来の産業用ロボットに対し、人と同じ空間で働くことを前提に設計された協働ロボットは、その目指す姿と自然に重なります。
●「触れて感じる」力制御を備えていること
フィジカルAIが現実世界で作業する以上、モノや人との接触は避けられません。部品をはめ込む、柔らかいものをつかむ、表面をなぞるといった作業では、目で見るだけでなく、どれくらいの力がかかっているかを感じ取る能力が欠かせません。
この「触れて感じる」能力を支えるのが力制御です。たとえば全軸にトルクセンサを内蔵した協働ロボットは、各関節にかかる力を常に検知しているため、接触時の衝突検知だけでなく、繊細な力加減が求められる作業にも対応できます。フィジカルAIの時代に向けて、こうした力制御の能力は、ロボットの「身体」としての基礎体力といえるでしょう。
こうした流れを受けて、大手協働ロボットメーカーが相次いでフィジカルAIへの対応を打ち出しています。ここではその一例として、当社が国内正規代理店を務めるROKAEの取り組みをご紹介します。
●「ロボットメーカー」から「フィジカルAIを支えるインフラ企業」へ
ROKAEは、自社の位置づけをフィジカルAIを支える中核インフラ企業へと再定義しています。背景にあるのは、「脳はあるが手がない」「手はあるが脳がない」という業界の課題認識です。大規模なAIモデルは認識や推論に優れていても、現実世界に働きかける身体を持ちません。一方、従来のロボットは高速・高精度に動けても、変化する状況を自ら理解することはできません。ROKAEは、この両者をつなぐ基盤づくりを自社の役割と位置づけています。
●「大脳・小脳・機体」を一貫して手がける
その技術体系は、人の身体になぞらえた3つの層で整理されています。
注目したいのは、協働ロボットで培ってきた制御技術と力制御技術が、そのままフィジカルAIの土台として位置づけられている点です。フィジカルAIは、これまでの協働ロボットと別の技術ではなく、その延長線上にあることがわかります。
●現場で鍛え、パートナーとともに広げる
ROKAEの戦略には、もうひとつ特徴があります。それは、あらゆる作業をこなす汎用的なAIの完成を待つのではなく、精密な組立や挿入といった用途を絞った領域から先に実用化を進めていることです。現場で得られたデータがAIを鍛え、鍛えられたAIが再び現場に戻る。この循環を重視しています。
あわせて、ビジョンセンサやグリッパなどの周辺機器メーカー、AI開発企業と連携できる開かれた開発基盤を整え、パートナーとともに適用領域を広げる方針をとっています。
なお、ここでご紹介したのはROKAE本社のグローバルな取り組みであり、製品やサービスによっては日本国内での提供時期が未定のものもあります。ROKAEのフィジカルAI戦略の詳細は、ROKAE製品サイトであらためてご紹介する予定です。
とはいえ、フィジカルAIによってロボットがあらゆる作業を自律的にこなす時代は、まだこれからです。当面は、次のような段階を踏んで現場に広がっていくと考えられます。
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段階 |
内容 |
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STEP 1 定型作業の自動化 |
決まった作業を協働ロボットで自動化する(現在の主流) |
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STEP 2 状況への適応 |
ビジョンセンサや力制御を組み合わせ、ワークのばらつきなどに対応する |
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STEP 3 AIによる自律判断 |
AIが状況を判断し、作業内容そのものを柔軟に切り替える |
重要なのは、STEP 3の段階はSTEP 1・2の積み重ねの上に成り立つということです。フィジカルAIが本格的に実用化されたとき、スムーズに活用できるのは、すでにロボットと人が一緒に働く現場をつくってきた企業でしょう。今から準備できることとして、次の3点が挙げられます。
●まずは協働ロボットで自動化を始める
ロボットを扱うノウハウ、ロボットを前提とした作業設計は、一朝一夕には身につきません。現在の協働ロボット導入は、将来のフィジカルAI活用に向けた土台づくりにもなります。
●作業の標準化とデータの蓄積
AIが学習し、判断するためには、作業内容やその結果のデータが欠かせません。「熟練者の勘」に頼っている作業を見える化し、記録していく取り組みは、今すぐにでも始められます。
●安全方策の考え方を身につける
ロボットがAIによって賢くなっても、人と同じ空間で働く以上、リスクアセスメントに基づく安全方策の重要性は変わりません。むしろ動作が柔軟になるほど、どのような条件でどう動くのかを把握し、リスクを低減する考え方がより重要になります。詳しくは「協働ロボット導入と安全方策」もあわせてご覧ください。
「考えて動くロボット」を実現するフィジカルAIは、製造現場の自動化を次の段階へ進める技術として、国内外で急速に注目を集めています。
フィジカルAIの時代はまだ始まったばかりですが、その土台となる協働ロボットの活用は、すでに多くの現場で進んでいます。「協働ロボットで何ができるのか、実際に見てみたい」という方は、ぜひ協調安全ロボットテクニカルセンターで実機をご体験ください。協働ロボットによる自動化でお困りごとやお悩みがありましたら、当社にお気軽にご相談ください。